
WBCと株式市場。
この2つを結びつけて語るとき、必ず思い出される銘柄があります。
大谷工業(5939)です。
2023年のWBC期間中、株式市場で起きたこの奇妙な現象を覚えているでしょうか。
事業内容は野球と1ミリも関係ない。
それにもかかわらず、大谷翔平選手と同じ「社名」だけを理由に買いが殺到しました。
株価は短期間で4,000円台から16,050円まで急騰。
実に約4倍です。
今年もすでに大谷工業の株価は、業績とはどこか噛み合わない動きを見せています。
2023年の再来はあるのか――。
これはまさしく、チキンレースです。
そして、いよいよ2026年3月5日。
侍ジャパンの連覇をかけた戦いが幕を開けます。
「また、あの祭りが来るのか?」
そう考え、手ぐすねを引く投資家たち。
しかし今回の「大谷相場」には、前回とは決定的に違う3つの懸念材料があります。
名前が同じだけでなぜ買われる?「大谷工業」の謎のアノマリー
投資の世界には、合理的な説明がつかない不思議な値動き、いわゆる「アノマリー(経験則)」が存在します。しかし、大谷工業(5939)がWBCで見せる挙動は、その中でもトップクラスにシュールなものです。
事業内容は「電力鉄塔」……野球要素はゼロ!
まず大前提として、大谷工業は何をしている会社なのかを確認しておきましょう。
- 主力事業: 配電・通信線用の架線金物、送電鉄塔の設計・製造。
- 主要顧客: 全国各地域の電力会社、通信会社など。
そう、彼らが作っているのは、私たちの頭上に張り巡らされた電力網を支える「鉄」のインフラです。
野球のバットも作っていなければ、球場の運営もしていません。
大谷翔平選手との接点は、ただ一つ。
「大谷」という二文字を社名に冠していること。
たったこれだけです。
なぜ「名前だけ」で株価が4倍になるのか?
通常、株価は業績(稼ぐ力)や将来性に基づいて決まります。
しかし、WBC期間中の大谷工業は、企業のファンダメンタルズを完全に無視した
「ミーム株(SNSで話題になるネタ銘柄)」へと変貌します。
この現象の裏側には、投資家たちのこんな心理が隠れています。
✅連想買いの極致
「大谷選手が活躍する → 日本中が熱狂する → 大谷という名の株が買われるはず」という、
風が吹けば桶屋が儲かる的な連想ゲーム。
✅験担ぎと遊び心
「大谷選手を応援する代わりに、大谷工業を買う」とSNSで宣言し、
一種のネットミームとして盛り上がる。
✅アルゴリズムの反応
AIやシステムトレードが「大谷」というワードの急増を検知し、
機械的に売買を行う。
2023年に起きた「垂直立ち上がり」の記憶
前回の2023年大会。
大谷工業の株価推移は、まさに伝説でした。
開幕前の4,000円台から、
大谷選手が二刀流で暴れまわるたびに出来高を伴って急騰。
決勝でトラウト選手を三振に仕留め、世界一が決まった瞬間の高揚感とともに、
株価は一時16,050円に到達しました。
理屈を超えた「お祭り騒ぎ」が生んだこの株価チャート。
しかし、2026年は同じ景色になるとは限りません。
なぜなら今回の「大谷相場」には、
2023年には存在しなかった決定的な違いがあるからです。
懸念材料①:地上波消滅? Netflix独占配信がもたらす「情報の分断」
2026年大会が、前回の2023年大会と決定的に違う点。
それは、WBCの試合が地上波テレビで一切中継されないという衝撃的な事実です。
「国民的行事」から「有料コンテンツ」へ
前回大会では、テレビ朝日やTBSが日本戦を中継。
視聴率は軒並み40%超、決勝戦に至っては平日の午前中にもかかわらず、日本中のテレビが
「大谷 vs トラウト」の対決に釘付けとなりました。
しかし2026年大会、全試合を独占配信するのはNetflix。
視聴するには有料会員(広告つきプランで月額890円〜)になる必要があり、
SNSでは早くも
「無料で見られないのか」
といった嘆きの声が上がっています。
投資家が恐れる「熱量の低下」
この配信形態の変化は、株価にどう影響するのでしょうか?
- ライト層の不参加: 「なんとなくテレビで見ていたら大谷が凄かったから、関連株を買ってみよう」というライトな個人投資家が激減する可能性があります。
- 情報のタイムラグ: 配信の遅延(レイテンシ)により、ホームランを打った瞬間に一斉に買い注文が入るという「リアルタイム連動」の勢いが削がれる懸念があります。
- パブリックビューイングの制限: Netflixの商用利用制限により、スポーツバーや居酒屋での観戦が難しくなり、街全体の「お祭り騒ぎ」がトーンダウンする恐れも指摘されています。
2023年の大谷相場は、
「無料 × 同時 × 全国一斉」
という環境が奇跡的に揃った結果でした。
2026年は、
「有料 × 個別 × 分断」。
この違いは、
思惑株にとっては致命傷になりかねない――
そう考える投資家が増えているのも、無理はありません。
懸念材料②「打者専念」の影響は吉と出るか凶と出るか?
2026年WBC。
大谷翔平選手は指名打者(DH)一本での出場を明言しています。
この「投げない大谷」という事実が、
思惑株にどう影響するのか。
これには、二通りの見方があります。
【凶と出るか?】「投げる大谷」という最大材料の喪失
思惑株は、「物語(ストーリー)」で動く相場です。
前回大会での「守護神・大谷」という強烈なインパクトは、
投資家の熱狂を煽る最強のスパイスでした。
✅クライマックスの不在
「最後は大谷が締めて優勝!」という
明確なゴールイメージを描きにくく、
大会終盤に向けた期待先行の買い上がりが
鈍るリスクも否定できません。
✅インパクトの欠如
投手としての劇的な奪三振シーンがなくなることで、
試合中に訪れる
「株価が一気に動く瞬間」
が減る、という見方があります。
【吉と出るか?】「打撃に全集中」によるホームラン量産
一方で、
打撃に専念することで、
前回大会(1本塁打)を大きく上回る
「ホームラン量産」を期待する声もあります。
✅進化した打撃が生む圧倒的存在感
ロサンゼルス・ドジャース移籍後、
さらに完成度を高めた打撃技術で、
「毎試合ホームラン級」の異次元の活躍を見せれば、
投手不在の穴を埋めて余りあるほどの熱狂を生む――
そう考える投資家がいても不思議ではありません。
✅毎試合が材料視される可能性
指名打者であれば、全試合フル出場が濃厚。
打席が回るたび、
そしてフェンスを越えるたびにSNSが沸き、
その熱量が株価を刺激し続ける
「継続的な燃料投下」になる可能性があります。
懸念材料③織り込み済みの恐怖
投資の世界には
「噂で買って、事実で売る」
という有名な相場格言があります。
2023年の大谷工業バブルを経験した今、
多くの投資家が同じシナリオを想定していること自体が、
実は最大の懸念材料です。
こうした相場格言は、現代のテーマ株・思惑相場でも本当に通用するのか?
については、こちらの記事で詳しく整理しています。
👉 相場格言は当てにならない?令和の相場で“使える格言・使えない格言”
「知れ渡ったアノマリー」は通用しない?
2023年大会の際、
大谷工業の急騰は多くの投資家にとって
「予期せぬサプライズ」でした。
しかし、2026年の今、状況は一変しています。
✅待ち構える投資家たち
「WBCといえば大谷工業」という知識は、
もはや一部の投機筋だけでなく、
個人投資家の間でも広く共有されています。
すでに開幕の数か月前から“仕込み”を始めている層も少なくありません。
✅早まる買い、早まる売り
賢い投資家ほど、
「大会が始まってから買う」のではなく、
「始まる前に買い、盛り上がる前に売る」
という行動を取ろうとします。
「開幕が天井」になるリスク
もし多くの投資家が「大会中に上がるはずだ」と考えて開幕前に仕込んでいた場合、いざ3月5日の開幕戦を迎えた瞬間、「材料出尽くし」として一斉に利益確定売りが浴びせられる可能性があります。
- 前回の成功体験が仇に: 「前回は16,000円まで行ったから、まだ上がる」という期待が、実は売りたい人たちの格好の出口(買い支え)にされてしまうリスクです。
- 新NISA組の参入: 2024年から始まった新NISAで投資を始めた初心者層が、ネットの情報を見て高値で飛び乗り、熟練投資家の「利確」の餌食になる……という残酷な構図も予想されます。
まさに、チキンレース
全員が
「いつ上がるか」
ではなく
「誰が先に降りるか」
を考え始めた相場。
それが、
織り込み済みになった“思惑株”の末路です。
結論:思惑買いは、すでに始まっている
結論から言えば、
大谷工業を巡る思惑買いは、すでに水面下で始まっています。
WBC開幕を待たず、
「前回はこうだった」
「今回も来るかもしれない」
そう考えた投資家たちが、静かにポジションを取り始めている――
それ自体は、板や値動きを見れば否定しようがありません。
しかし重要なのは、
「思惑が始まっている」ことと、
「最後まで上がり続ける」ことは、まったく別物だという点です。
2023年の相場は、
- 地上波による全国同時の熱狂
- 投打二刀流という分かりやすい物語
- そして、誰も予想していなかった“初動”
この三拍子が奇跡的に重なった結果でした。
一方、2026年はどうか。
- 熱狂は分断され
- 物語は単純化され
- 何より、全員がこの相場を知っている
つまり今回は、
「夢を見に行く相場」ではなく、
「誰がどこで降りるかを探る相場」です。
もしこの銘柄に向き合うのであれば、
必要なのは期待ではなく、
明確な出口戦略でしょう。
この相場は、
最後まで付き合った人ではなく、
一歩早く席を立った人が勝つ。
――まさに、チキンレースです。
おわりに
本記事は、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資はあくまで自己責任で、そして何より侍ジャパンの勝利を心から願って楽しみましょう!


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