
日経平均株価が6万円の大台をうかがおうという、かつてない強気相場。
市場は「持たざるリスク」に怯え、上がる株を追いかける順張りムード一色です。
そんな熱狂の裏側で、僕のような逆張り派は静かに、そして執念深く“置き去りにされた優良株”を探し続けています。
そのなかで目に留まったのが、医薬品セクターの雄・第一三共(4568)。
武田薬品やアステラス製薬が買われる一方、同社の株価だけは冴えないまま。まさに「セクター独り負け」の様相です。
なぜ第一三共だけが取り残されているのか。
決算資料を読み解きながら、その理由と“今は買いなのか”を冷静に検証していきます。
なぜ第一三共の株価だけ冴えないのか?―「2,000億円」の看板に隠された落とし穴
医薬品セクターの主力企業であるはずの第一三共(4568)
武田薬品工業やアステラス製薬が買われるなか、
同社株は相対的に上値の重い展開が続いています。
この「セクター内の出遅れ」は、業績要因だけでは説明しきれません。
一般的に指摘されるのは、
- 成長の踊り場 — 利益成長スピードの鈍化懸念
- 材料出尽くし — 主力薬エンハーツの成功がすでに織り込まれている
- 新薬への疑念 — 次世代ADC「ダトロウェイ」の売上見通しが不透明
どれももっともらしい分析ですが、僕はもっとシンプルで、かつ投資家心理を強烈に冷やす“別の要因”があると考えています。
自社株買いという「期待」と現実
2025年4月25日、同社は以下の自社株取得を発表しました。
- 取得上限:8,000万株(発行済の4.29%)
- 取得総額:2,000億円
- 取得期間:2025年5月1日~2026年3月24日
規模としては大型です。
通常であれば、需給の下支え要因として意識されます。
2025年12月の自社株取得状況
- 取得株数:0株
- 取得総額:0円
- 取得期間:2025年12月1日~12月31日
2025年度は1株たりとも買わなかった。
これは市場にとって強烈なメッセージです。
「第一三共は本気で株主還元する気がないのでは?」
「2,000億円と言ったのは“口先”だったのか?」
こうした疑念が積み重なり、株価の失望売りにつながった可能背もあります。
2026年1月の執行開始
2026年1月の報告では、ようやく買い付けが実行されました。
- ✅取得株数:3,403,600株
- ✅取得総額:約100億円
- ✅取得期間:2026年1月1日~1月31日
しかし、2,000億円の枠に対してわずか5%にすぎません。
ここからのペース次第では、
- ✅本格的な需給改善要因
- ✅あるいは消化不十分による再評価
のどちらにも振れ得ます。
仮説としての「心理の冷え込み」
第一三共の株価が上値の重い展開を続けている背景には、業績や新薬動向だけでは説明しきれない要素があると感じています。
僕はその一因として、
発表された自社株買いが長期間執行されなかったことによる心理的な失望が影響しているのではないかと考えています。
第一三共はこれまでも自社株買いを実施してきましたが、今回の2,000億円枠については、発表後しばらく取得が確認されない状態が続きました。
その結果、
- ✅還元姿勢への疑念
- ✅経営陣の株価認識への慎重な見方
- ✅需給改善への期待後退
といった解釈が広がった可能性があります。
あくまで仮説ではありますが、
業績数値と株価推移のズレを考えるうえで、無視できない心理要因だと見ています。
第3四半期決算を分析 ― 「稼ぐ力」は過去最強
株価が上がらない理由は単純ではありません。
需給や期待値調整など複数の要因が絡んでいるはずです。
しかし、決算内容そのものを精査すると、必ずしも悲観する数字ではないことが見えてきます。
1. 「減益」という名の先行投資
営業利益は 2,338億円(前年同期比5.9%減) と一見ネガティブに映ります。
しかし内訳を見ると、むしろ“攻めの減益”であることが明らかです。
- ✅研究開発費:3,387億円(前年同期比 +381億円)
利益が減ったのは、稼げなくなったからではありません。
次世代ADC(抗体薬物複合体)5品目を同時開発するという、過去最大級の投資を行っているからです。
これは衰退ではなく、成長加速前の投資局面と解釈できます。
2. 主力薬エンハーツの拡大
エンハーツの売上収益は、
- ✅5,068億円(前年同期比 +25.3%)
と、前年から1,000億円以上の積み増し。
世界中で標準治療薬としての地位を固め、成長速度はむしろ加速しています。
さらに2025年12月には、長年の懸念だった 米シージェン社との特許訴訟で逆転勝訴。
数千億円規模の賠償リスクが完全に消滅し、財務の不確実性が一気に取り除かれました。
これは貸借対照表には表れない、極めて大きなプラス材料です。
3. 新薬の上方修正
市場が弱気に見ていた第2の柱、ダトロウェイ(Dato-DXd)も実は堅調です。
- ✅通期売上予想:470億円へ上方修正
「期待外れ」と切り捨てられていた薬剤が、実は医療現場で着実に浸透している。
市場の弱気な予想を裏切り、医療現場での普及は着実に進んでいるのです。
4. コア利益の伸長
今回の決算では、為替が売上を押し上げた一方で、為替予約による損失も計上されています。
それでも、
- ✅コア営業利益:2,492億円(前年同期比 +8.8%)
と、本業の稼ぐ力はしっかり伸びています。
研究開発投資を吸収しながら利益を維持している点は評価できます。
では、なぜ株価は反応しなかったのか?
一因として考えられるのは進捗率。
- 通期計画に対する進捗率(75.5%)が、例年の平均(94.4%)より低かったから
しかしこれは、売上が弱いからではありません。
- 売上の進捗は 73〜78% と極めて順調
- 利益だけが遅れているのは、研究開発費を前倒しで大量投入したため
構造的な収益悪化ではありません。
市場は短期的な利益率低下を嫌気した可能性がありますが、
中身を見る限り「収益力の低下」とは言い切れません。
次期中期経営計画への期待
低迷が続く第一三共の株価。
しかし逆張り投資家の視点で見れば、現在は「評価が追いついていない期間」に映ります。短期的にも中長期的にも強気でいられる理由は、感覚ではなく、材料の積み上がりにあります。
1. 「第5次中計」の到達点と次のステージ
第5次中期経営計画(2021〜2025年度)は2026年3月末で終了します。
足元の状況を整理すると、
- ✅主力薬エンハーツは高成長を維持
- ✅ダトロウェイは売上予想を上方修正
- ✅5つのADCを同時開発する攻めの投資
- ✅特許訴訟リスクの解消
計画終盤としては、内容面は堅調と言える水準にあります。
例年通りであれば、4月下旬の本決算で次期中期経営計画が示されます。
焦点はここです。
次の5年間をどう描くのか。
- ✅エンハーツの成長持続性
- ✅ADC群の収益化タイムライン
- ✅株主還元のスタンス
市場が求めているのは、足元の数字ではなく「中期の確度」です。
新中計が成長の持続性を明確に示せれば、評価修正の契機になる可能性があります。
2. 自社株買い「残枠」の意味
2,000億円の自社株買いが長期間未執行だったことは、心理的な重石になりました。
しかし、2026年1月から買付が再開された事実もまた重要です。
- ✅期限は3月24日
- ✅残枠は約1,900億円
ここからの執行ペース次第では、需給面の下支え要因になります。
仮に枠を使い切らなかった場合でも、
- ✅次期中計で還元方針が再提示される可能性
- ✅資本政策の再設計
といった余地が残ります。
未執行=ネガティブとは限らない、という点は冷静に見る必要があります。
3. 「出遅れ」という名の最大級の買い材料
日経平均が史上最高値を更新し、多くの銘柄が割高感を抱える中で、第一三共ほどの実力株がこれほどまでに出遅れているのは、もはや“奇跡的な歪み”です。
足元の状況を整理すると、
- ✅業績は大崩れしていない
- ✅主力薬は拡大基調
- ✅次世代パイプラインは進行中
- ✅訴訟リスクは解消
一方で株価は相対的に出遅れています。
この背景には、
- ✅期待値の修正
- ✅還元執行の遅れ
- ✅中計発表前の様子見姿勢
といった要素が絡んでいると考えられます。
つまり現在は、
「企業価値の積み上がり」と「市場の慎重姿勢」に時間差が生じている局面」
とも解釈できます。
その時間差が埋まるきっかけが、新中期経営計画になるかどうか。
そこが次の焦点です。
まとめ
僕は、第一三共の株価がここまで低迷している背景には、業績や新薬そのものよりも、自社株買いが長期間実行されなかったことによる心理的な失望が影響している可能性が高いと考えています。
企業側の意図は外部からは分かりません。ただ、半年以上「0株・0円」が続いた事実は、少なくとも市場の一部に不信感を与え、株価の上値を抑える要因になったと見るのは自然でしょう。
一方で、決算の中身に目を向けると、事業の実態はむしろ強い。
- ✅エンハーツは高成長を維持
- ✅ダトロウェイは売上予想を上方修正
- ✅ADC群へは過去最大規模の先行投資
- ✅訴訟リスクも解消
短期利益は研究開発費の前倒しで圧迫されていますが、本業の稼ぐ力そのものが弱っているわけではありません。
だからこそ、今後の焦点は次期中期経営計画に移ります。
本決算までは「将来の成長シナリオ」への期待が株価を支える可能性がありますが、決算発表後の値動きはコンセンサス次第です。強気のガイダンスが示されれば再評価、逆に期待未達なら一時的な失望売りもあり得るでしょう。
ただ、現在の株価水準は
「慎重な株価」と「強化されつつある事業基盤」のギャップ
が拡大している局面にも見えます。
もちろん、これはあくまで一投資家としての見解です。
最終的な投資判断は、ご自身のリスク許容度に基づいて行ってください。責任でお願いします。
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