
雇用統計は、FXトレーダーにとって月イチの“儀式”だ。
毎月21:30、数字が出た瞬間にドル円が跳ね、市場が一気に動き出す──はずだった。
2025年8月1日発表の7月米雇用統計、確かに為替は動いた。
だが今回は、株式市場までも大きく揺らした。
理由は数字の弱さだけではない。
「統計そのもの」への不信感だ。
発表当日、トランプ大統領が統計局長を即日解任。
その背景には「不正操作」疑惑まで浮上している。
数字はただの経済指標ではなく、政治の武器になりつつある。
📊 2025年7月 米雇用統計のポイント
まずは、今回の雇用統計の数字から。
🧮 非農業部門雇用者数は、前月比+7.3万人。
市場予想(+11万人)を大きく下回り、伸びは予想以上に鈍化した。
さらに、5月・6月分の雇用者数が合計で25.8万人も下方修正される異例の事態。
過去3か月平均は+3.5万人と、コロナ後で最低水準に落ち込んだ。
📉 失業率は4.2%(前月4.1%)と悪化し、労働参加率は62.2%と3か月連続の低下。
雇用環境の同時悪化が鮮明になった。
💵 平均時給は前月比+0.3%、前年比では+3.9%。
インフレ圧力は残るものの、伸び率はやや鈍化し、業種間でばらつきが見られた。
🏛 トランプ大統領、統計局長を“即日解任”──揺らぐ数字の信頼性
雇用統計の発表から数時間後、トランプ大統領はSNSでこう投稿した。
「このバイデン政権の政治任命者を即時解任するよう、チームに指示した」
その後、ホワイトハウスが正式に解任方針を発表し、同日中にエリカ・マクエンタファー米労働統計局(BLS)局長は辞任を表明。
2023年にバイデン前大統領によって任命され、2024年1月に上院承認を受けた人物だった。
トランプ氏は「統計が不正操作され、選挙に利用された」と主張。
しかし、現時点でその主張を裏付ける公的な証拠は示されていない。
政権は過去分も含めた統計の再検証を指示している。
📉 雇用統計は、経済の“体温”を測る重要なデータ
それが「政治的に操作された」と現職大統領が公に非難するのは極めて異例だ。
本来、統計局は政権から独立して運営される超党派的な機関だが、今回の解任劇はその中立性に対し、市場や専門家の間で疑念を呼ぶ結果となった。
📉 市場の反応──数字と政治リスク、ダブルパンチの衝撃
今回の雇用統計の弱さは、発表直後から市場に波紋を広げた。
しかし投資家を動揺させたのは数字だけではない。
トランプ大統領による統計局長の即日解任──
「統計が政治的に操作された」という主張が、投資家心理に深く刺さった。
📈 株式市場では、S&P500が発表直後に▲1.6%の急落。
ナスダックは一時▲2%を超え、特に金利に敏感なハイテク株に売りが集中した。
💵 為替市場では、ドル円が発表直後の149円台から1時間足らずで147円台前半まで下落。
弱い雇用統計と利下げ観測、さらに統計不信感による米景気懸念が、ドル安・円高を加速させた。
💰 債券市場では、2年債利回りが3.7%を割り込み、
年内2回の利下げが完全に織り込まれる展開となった。
🧠 投資家の関心は「数字の弱さ」よりも、
「統計の信頼性」そのものに向かっていた。
「悪いニュースは悪いニュース」──
今回ばかりは、そんな言葉がそのまま市場に響いたように思う。
🧭 来月以降の雇用統計はどうなる?
- 市場予想:小幅回復または横ばい
- 7月の非農業部門雇用者数は+7.3万人と市場予想(+11万人)を大きく下回り、5・6月分も合計▲25.8万人の下方修正。
- 失業率は4.2%と低水準を保っているが、製造業や建設業の雇用鈍化が続き、伸び余地は限定的との見方が優勢だ。
- 政治的圧力による数字の“調整”リスク
- トランプ大統領が統計局長を解任したことで、「数字の信頼性」への疑念が浮上。
- さらにFRB理事の辞任や後任人事も重なり、経済統計の独立性が揺らぐ懸念が広がっている。
- 市場は「政治的な利下げ誘導」を警戒し、数字の真偽よりも“意図”を読む姿勢に。
- 「数字より市場の反応」が重要になる理由
- 雇用統計の弱さが利下げ期待を煽り、株式市場は一時的に下落→その後ハイテク株中心に回復。
- 金利先物市場では9月利下げの織り込みが進み、ドル安・長期金利低下が加速。
- 今後は「統計の内容」よりも、「市場がどう解釈し、どう動くか」が金融政策や株価に直結する展開が続きそうだ。
🧭 投資家へのポイント:揺れる統計の中で、静かに構える
📉 短期的視点:発表直後のボラティリティに注意
2025年8月発表の米雇用統計は予想を大幅に下回り、過去分も異例の下方修正。
発表直後には米長期金利が急低下、ドル安が進行し、株式市場もダウ−500ドル超安、S&P500−1.6%、ナスダック−2.2%と全面安に。
この局面では価格変動が一時的に激化するため、感情的な売買は避け、冷静な判断を心がけたい。
🧩 中長期的視点:統計の信頼性低下と政治介入という二重リスク
今回の統計では、5月と6月分の雇用者数が合計▲25.8万人も下方修正される異例の事態となりました。
大幅修正自体は、事後報告や集計方法の更新に伴うテクニカルな現象ですが、これほどの規模はまれで、労働統計局(BLS)の集計精度や制度運営に疑問が生じます。
さらに問題を複雑にしたのが、トランプ大統領の即時介入です。トランプ大統領は「統計が不正に操作された」と断言し、BLS局長を解任。原因の検証や手続きなしに政治的判断が下されたことで、「統計は政権の意向で変えられる」という懸念が市場に広がりました。
統計の信頼性を損なう要因が、制度の内側(集計精度の低下)と外側(政治介入)の両面から同時に発生した今回のケースは、経済指標の羅針盤機能を大きく揺るがす可能性があります。投資家は、数字そのものだけでなく、その数字が生まれるプロセスにも目を向ける必要があるでしょう。
🛡️ ポートフォリオ戦略:分散とリスクヘッジの再確認
不確実性の高い環境では、守りの姿勢を強化することが不可欠だ。
- 為替:円高局面での外貨資産取得や通貨分散
- 資産配分:株式・債券・コモディティのバランス調整
- 地域分散:地政学的リスクを踏まえた投資先の分散
複数のリスクに備える構えが、長期的な資産防衛の鍵となる。
雇用統計の発表ページ: https://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm (このページで最新の雇用統計サマリーが確認できます)
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